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2019年5月5日

「心理的契約」という概念で考える働き方改革

2016年度は『働き方改革』という言葉がメディアを通じて国民を賑わせました。大手広告代理店電通における過重労働問題は、日本企業の働き方の歪みや制度疲労を露呈し、私たちビジネスパーソンに“働き方”について根本から考え直す機会を与えてくれました。「働き方」を考えることは「組織と個人との関係」について考えることにも繋がるかもしれません。企業に所属されている方であれば、就業規則や雇用契約書などに労働条件が記載され、その内容が組織と個人の関係を規定していると考えるのが一般的です。しかし、就業規則や雇用契約書の内容が全てでしょうか。
組織心理学研究で有名な米国カーネギー・メロン大学のデニス・ルソー教授は、組織と個人との関係について「心理的契約」という表現で規定しています。心理的契約とは、企業で働く個人とその雇用主との間に、契約書などで明文化されている内容を超えて、相互に期待し合う暗黙の了解が成立、作用することをいいます。つまり就業規則や雇用契約書には記載のない暗黙の了解事項が存在すると説明しています。確かに、日本的雇用慣行の象徴として現在も残っている終身雇用という慣行(制度ではない)は、就業規則や雇用契約書には記載されておらず、暗黙の了解事項として存在していると考えるのが一般的です。
労働条件とは多くの場合、入社時点での将来にわたる契約でありながら、その契約内容(労働条件や職務内容など)を状況変化に対応する形で具体的に明示することができないため、信頼に基づく心理的契約である側面が強いといわれます。
バブル崩壊以降失われた20年と言われ、多くの企業で心理的契約を履行できない場面が多くなっています。「将来のキャリアパスを明示してほしい」「配属先や転勤について、もう少し説明してほしい」「人事評価結果を開示しフィードバックがほしい」といった期待が不履行になっていることが多いようです。個人も企業も相手に対し「ここまではしてくれるだろう」と、つい勝手な思い込みを抱いてしまうのかもしれません。ややもすると組織に対して過度な期待をしてしまったがために裏切られたという思いが強くなり、組織と個人の関係性が悪化してしまう(悪化したと感じる)のかもしれません。
組織と個人との関係は、考え方や価値観によって様々であり、外部環境によりダイナミックに変化していきます。特に昨今のような雇用慣行や労働市場の激変期においては顕著です。私たちビジネスパーソンひとりひとりが主体的に考え実現していく時代なのかもしれません。
『働き方改革』を通じて組織と個人との関係を見直すこと。その先には新しい価値観で個が自立(自律)し、組織とWin-Winの関係を構築し、活力に溢れる社会が待っていることでしょう。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)