2019年12月25日
日本企業の各職場でハラスメント防止に取り組む動きが進んでいる。厚生労働省の「平成30年度雇用均等基本調査(確定版)」では、60%超の企業がセクハラや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止策を講じている。2019年5月には、職場でのパワーハラスメントの防止策に取り組むことを企業に義務づける労働施策総合推進法が成立。今後、企業内でパワハラ防止に向けた対応が促進されることが予想される。 そもそもパワハラという言葉。その現状や実態の捉え方については大きく二つの見解に分かれるように思われる。ひとつは、パワハラは、「あくまで職場の単なるコミュニケーションギャップの問題」であり、「個人的な指導の行き過ぎの問題だ」という見解。もうひとつは、パワハラは、「職場の重大な人権問題」であり、「深刻な労働問題だ」という見解である。ミクロの視点とマクロの視点との違いといったところである。確かに、個々のパワハラ事案の内容を紐解くと、上司-部下間のコミュニケーションギャップに帰着するケースが多い。しかし、コミュニケーションギャップを放置したり、一過性の問題と見誤り、背景にある職場環境の微妙な変化に気づかないと、ジワジワと職場に負の空気が蔓延し、職場劣化が生じ、職場の機能不全が生じてしまうのである。 パワハラの実態を把握するには、今回の法律で要件として出している、有意な立場を背景に、職務の適正な範囲を超えて、職場環境を悪化させる行為の実態を明らかにすることが重要である。昨今社会問題化している深刻な企業不祥事(電通事件、スルガ銀行事件、かんぽ生命事件等)の背景には、過剰なノルマ主義に代表される不健全な企業体質が見え隠れする。つまりパワハラが原因で職場劣化が生じている職場では、次のステージとして、組織ぐるみでの大規模な企業不祥事(違法行為)に発展するリスクが高まるということである。パワハラ問題は、労務問題の領域を超えて、企業コンプライアンスの問題に発展する。経営層は、責任を追及され、組織としての存続が危ぶまれる事態となる。 令和時代となり、組織と個人との関係が液状化(リキッド化)し、多様な人材がひとつの職場に共存する光景が一般化しつつある。阿吽の呼吸や忖度といった昭和的組織マネジメントへの過度な依存、ダイバーシティといった美辞麗句での問題の先送りではなく、組織と個人が真剣にこのパワハラ問題に向き合い、胸襟を開いて、労使で真摯な議論を交わすことが重要ではないか。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長
1996年早稲田大学卒 2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉 1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。 その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。 現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長 ■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員 ■2級キャリアコンサルティング技能士 ■産業カウンセラー ■大学キャリアコンサルタント ■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)