コラム一覧

2020年10月6日

コロナ禍で高まる?! あえて決定しないキャリア戦略

 コロナ禍で先行き不透明な状況は続きます。しかし、仮にコロナという外的要因が生じなかったとしても、日本は既に成熟社会に入り、かつてのような経済成長や人口増による総需要の拡大は見込めないでしょう。今後は、SDGsという言葉に象徴されるように、社会の持続可能性を意識することが重要視されます。企業経営においても、売上規模やマーケットシェア拡大的発想は限界に達し、地球環境に配慮した適正規模での収益と、社員の心理的安全性を確保した多様で柔軟な組織マネジメントが求められるでしょう。
 こうした環境変化において、働く個人のキャリアはどう変化していくのでしょうか。著名な学者の一人であるジェラッドは、かつてはキャリア上の意思決定を行う人間に対して、目標を明確にし、情報を合理的に分析し、結果を予測し、一貫性を保つことを要求していました。昭和時代の日本のように、過去というものの評価も安定し、将来というものもある程度予測可能な場合、合理的で客観的な意思決定の枠組みが有効でした。
 ところが今日では、過去のもつ意味も絶えず変化し、将来も予測不可能と考えられるようになったため、新しい意思決定の枠組みが必要となりました。複雑で変化の激しい時代に要求されるキャリア上のスキルとは、変化や曖昧さに上手に対処し、不確実さや一貫性のなさを受容し、思考や選択において、非合理的で直観的な側面を活かすことを促進するようなキャリア意思決定です。このような枠組みを「積極的不確実性」と称します。将来というものの不確実性を認識することと、不確実性を肯定的にとらえることがポイントです。
 絶えず経験から学び、納得いくキャリアを構築するためには、敢えて“決定しない”という戦略をとることもあるでしょう。キャリアカオス理論でも、将来のキャリアを予測することなど不可能であるという前提に立ち、不確実性や絶え間ない変化に満ちた環境への適応をどうしたらよいかに焦点を当てます。将来の出来事はコントロール不可能ですが、偶然の出来事の理解の仕方と対処の仕方が、その後のキャリア形成を大きく左右すると説きます。有名なクランボルツによる「計画された偶発性理論」にも関連しますが、偶然遭遇した想定外の出来事を自身のキャリアに活かすには、キャリアの方向性に幅を持たせておくことが必要です。ガチガチにキャリア・デザインをしてしまったら、想定外の出来事の入り込む余地がありません。
 結局は、キャリア・デザインなどといって先ばかりを見ていないで、「今」を大切に生きることも重要です。先のことばかり気にしていると、どうしても眼前の現実を疎かにしてしまいがちです。しかし、自身が生きているのは、紛れもなく今、ここにある現実であり、それ以外に自身が生きている現実などないのです。
 不確実性が高まる将来に向けたキャリア意思決定は、迷いや優柔不断を理由に消極的に先延ばしするのではなく、不確実性に対するリスクマネジメントを理由に積極的に決定しないという、ある意味で高度な戦略性が要求される時代を生きていくことになります。
 
 
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)