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2021年1月25日

変わっても変わらないもの

 昨年からのコロナ禍で私たちの働き方や生活が大なり小なり変化したことでしょう。テレワーク、在宅勤務、時差出勤、ワーケーション、地方への移住・・・メディアではこうしたキーワードを目にしない日はないほどです。実際どれだけの人々が働き方や生活を変えたのかは、様々なデータや調査が存在し、一定のバイアス(誤解や偏見)もあり、実態把握は容易ではありません。しかしながら、“これまでとは何か違うし、これからも違うな”と感じている方は多いのではないでしょうか。
 コロナ禍という特殊要因が生じなくても私たちを取り巻く環境は常に変化しています。変化を肯定的に受容するか否定的に拒否するかは個人の選択ですが、変化は受容するか拒否するかに関わらず私たちの環境に様々な問いかけをします。
 人事に携わる皆さんにとって、コロナ禍での変化とはいかがなものでしょうか。組織内に眼を向けると、制度や規程の構築と変更、システムのバージョンアップ、異動やローテーションによる人材のリロケーションなどコロナ禍においても、継続的な変化が生じているのではないでしょうか。一方でこうした組織内の変化は、『変わっても変わらないもの』として組織のメンバーからは時に冷やかな視線を浴びることも事実です。
 『フラット化する世界』がベストセラーになった著者のトーマス・フリードマンは次のように語っています。「1492年ごろに始まったグローバリゼーション1.0のときに、世界のサイズはLからMになった。多国籍企業が登場したグローバリゼーション2.0のときに、MからSになった。2000年ごろのグローバリゼーション3.0でSから極小になった」。
 世界のサイズが小さく変化することを語っていますが、物理的、地理的に小さくなったのでは勿論なく、人と人とのコミュニケーションの距離(身体的・心理的)が小さくなったことを意味します。
 ここ数十年で新しいコミュニケーション手段が世界を劇的に縮めたのと同じく、世界はこれまでも、印刷技術、郵便制度、航海術、鉄道、電信電話、ラジオ、飛行機、テレビ、FAXなどの発明により何度も縮めてきました。人と人とが誰と、どの程度離れた距離で、どれくらいスピーディーに情報を交換できるのか、その手段の長い歴史的変化の中では、インターネット技術やソーシャルメディアの登場は大きなエポックメイキングでした。
 しかし、人と人を繋ぐネットワークの手段が変化しても、本質の多くは不変(変わっても変わらない)であり、予測が可能です。人と人とが繋がる仕組み(ネットワーク)について理解し、変化しつつある部分についても知っておけば、世の中に発生する複雑な問いへの答えも見つけやすくなるのではないでしょうか。
 ネットワーク分野の研究者によると、ネットワークにはいくつかの形成パターンがあると言います。なぜ人と人とが出合い、コミュニケートすることでネットワークが形成されるのか。そこにはなぜ特定のパターンが存在するのか。パターン化したネットワークが組織内でのパワーや意見、機会、行動、成果にどう影響するのでしょうか。人事に携わる皆さんは、ネットワークという変わっても変わらないものの存在を意識しつつ、その影響力という視点から組織を眺めてみることで新しい何かを発見できるのかも知れません。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)