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2021年7月6日

「ホモフィリー」と「ヘテロフィリー」

 多様で個性に溢れた人材を活用したい!、ダイバーシティが大切!と叫ぶ企業は多いですが、その実態はいかがでしょうか?スタートアップベンチャー企業等で、創業当初は個性的で多様な人材が集い、自由闊達な雰囲気に満ち溢れていた場合でも、時間の経過(5年もすると)につれて、社長のお気に入り人材だけが残り、個性的でエッジの利いた人材は社外に転身してしまったという話をよく耳にします。なぜ、こうした残念な現実となってしまうのでしょう。
 経営学では、「ホモフィリー」と「ヘテロフィリー」という考え方があります。
ホモフィリーとは、「人間は同じような属性をもった人とつながりやすい」ことを表しています。ソーシャルネットワーク研究の考え方の一つです。「類は友を呼ぶ」とか「似た者同士」という表現にもあるように、同じ価値観や興味の対象が同じものを持つ人たちは、気が合いやすく、友達繋がりになりやすいものです。皆さんも経験があるのではないではないでしょうか。人間はそもそも心理的に同じ属性の相手に親近感を持ちやすいですし、属性が似ていれば同じことに興味を持つ可能性も高くなります。さらに、ホモフィリーに関する研究では、人間はこうした「同じような属性を持った人とのつながり」から影響を受けやすいということです。
 設立当初意気揚々と活気があったスタートアップベンチャー企業が、時間の経過とともに、組織内でマンネリ感や停滞感が漂い、同調圧力が醸成され、気がつけば社長のイエスマンばかりになっていたという理由は、このホモフィリーという考え方にヒントが隠されいたのです。人間のDNAレベルの話であり、逃れられない性かも知れません。このことはある意味「ホモフィリー」のマイナス面です。
 一方で、「ヘテロフィリー」という考え方もあります。「ホモフィリー」が相手と何かしら「似通った価値観」で繋がっている関係であるのに対し、「ヘテロフィリー」は利害関係を意味する表現です。
 私たちの周囲に存在する組織を見てみると、組織を構成するメンバー同士は、ある意味「ヘテロフィリー」の関係が基本にあり、その上で徐々に「ホモフィリー」の関係性を築いてゆくことが一般的ではないでしょうか。昨今の流行言葉に置き換えるならば、「ヘテロフィリー」がジョブ型雇用で「ホモフィリー」がメンバーシップ型雇用に該当すると考えることもできそうです。業務上、自分(自社)に利益を与えてくれそうな顧客やパートナーが現れれば、それまで親しく取引していた先には上手く理由をつけて、取引先を鞍替えする事はよくある事です。ビジネスは、商業ベースで動きますから、こうした「打算」はつきものです。しかしながら、組織内での人間関係においてまでヘテロフィリーが強く出すぎると、メンバー同士のコミュニケーション頻度にも影響が出てきます。そのうちいがみ合いが生じ、人間関係がギクシャクし、最悪の事態になりかねません。組織で働く私たちは、そもそも入社時点で「友人・知人関係」で組織に入ってくるケースは皆無であり、働く時間を経て「仲間(メンバーシップ)」意識を抱くようになり、ホモフィリーの関係性が広がっていきます。結果、組織内コミュニケーションが高まってゆくことが期待できます。
 「ホモフィリー」という言葉には、先程のスタートアップベンチャー企業のようなマイナスイメージもありますが、基本的には私たち人間にとっては、理屈抜きで心地よい関係性なのです。
 では、どのようして組織内に「ホモフィリー」環境を作っていけば良いのでしょうか。ひとつのヒントが「利他心」という言葉です。人間は生まれつき利己的な生き物だと言われていますが、利己心の裏側には、他人や社会のために行動を起こす利他心もしっかり存在しているようです。人間が本当に自分だけのことしか考えず、いつどこでも自分の利益のことだけしか考えない利己的な生き物であれば、きっと私たちは今ここに存在していないとも言われています。個々が抱く私利私欲の「利害関係」を一旦心にしまってもらいながら、メンバー各々が対話(コミュニケーション)を通して、譲り合う機会や場を数多く作ることができれば、結果としてホモフィリーな環境に繋がっていくのかも知れません。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)