2021年9月3日
多くの企業では、年間多数の研修が開催されています。研修担当者は、研修体系やターゲット、年間計画に基づき、研修のオペレーションを遂行していきます。しかし、少し立ち止まって考えてみましょう。皆さんの会社の研修は、受講者の「自己効力感」が高まるようなデザインがなされていますでしょうか?研修終了後のアンケートで「満足度」だけを指標にするのは間違っています。 人材開発の世界には、「研修転移(Learning Transfer)」という概念があります。「研修転移」とは「研修で学んだことが、現場で実践されること」を指します。研修転移とは、人材開発・研修開発にとっては「鬼門」です。それは、「研修会場において、受講者は、熱心に学んでいた」としても、その内容が、「研修終了後、各現場で実践」され、「成果を生み出さない研修」は、人材開発とは言えなくなるからです。 当然、すべての研修に研修転移が必要なわけではありません。しかし「行動を変容させ、成果を残すこと」は、多くの人材開発課題にとって至上命題として残ることが多いものです。 つまり、人材開発とは「学び」という手段を用いて、経営・組織にインパクトをもたらすことです。この考え方を採用すると、「研修転移のない研修」は「人材開発」の定義から、そもそも「外れてしまう」わけです。研修転移は、人材開発担当者にとって、最大の関心事になるのです。 では研修転移をどうやって促進していけばよいのでしょうか。研修転移を促進する要素については、既に多くの研究知見が存在します。ここではその1つを紹介します。 それは、研修終了時の「自己効力感(やろうと思う感覚)」を向上させるべく、研修を設計することです。研修設計時点での自己効力感セットアップです。研修終了時の自己効力感とは以下の4点を指します。 ①研修で学んだことを実践しようとする気持ちであり、 ②そのための事例やトレーニングが、研修で十分提供されており ③あとは研修終了後に機会が現場で与えられれば、 ④研修での学習内容をトライできるという実感のこと です。 昨今では、研修終了時の自己効力感が研修転移に影響を与えることが指摘されています。一方、これに対して、多くの研修で問われている「研修終了時の満足度」は、研修転移には影響を与えません。ですので、研修終了時の質問紙では、満足度よりも、自己効力感を問うことがスタンダードになっているのです。 研修終了時の自己効力感は、単に、研修終了時に「アゲアゲ(気分高揚)」されるだけでは上がりません。 ■そのための事例やトレーニングが、研修で十分提供されており ■研修終了後に、機会が現場で与えられる期待 が重要です。 そのためには、これまでよりも研修を綿密に設計することが重要になってきます。研修担当者にとっての最重要ミッションは、オペレーション段階での研修実践ではなく、企画。計画段階での綿密な研修設計なのです。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長
1996年早稲田大学卒 2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉 1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。 その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。 現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長 ■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員 ■2級キャリアコンサルティング技能士 ■産業カウンセラー ■大学キャリアコンサルタント ■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)