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2021年12月28日

意思決定における誤解 ~相関関係と因果関係を混同していないか~

 ビジネスの様々なシーンで物事を決定する(意思決定する)機会は頻繁にあるかと思います。経営戦略に関わる大きな意思決定だけでなく、ビジネスパーソン各人の日常業務においても小さな意思決定を積み上げて組織が廻っているかと思います。
 では、最適化された意思決定とは何なのでしょうか?どのような思考プロセスを経れば良いのでしょうか?
 ビジネスシーンで頻繁に見られる誤解は、相関関係と因果関係の混同です。相関関係と因果関係の違いについて、学び、理解していると自負するパーソンは多いです。しかし実際の意思決定場面においては、相関関係を因果関係と混同し、結果として誤った(ミスリード)した内容を主張するケースが多いです。こうした主張は、精査を経ていなかったり、誇張であったり、誤った形で判断材料として使われたりすることが頻繁に発生してしまいます。
 データを都合よく解釈し、誤った材料をもとに意思決定を下せば、大惨事を招く可能性すらあります。こうした事態を避けるためには、組織が「仮説検証」の重要性を認め、意思決定プロセスに組み込むことが重要です。
 例えば、心血管疾患のリスクが入浴によって低下しうるか否かを知るために行われた、健康調査について考えてみましょう。ある分析結果によると、定期的に入浴する人は心血管疾患や脳卒中の発症率がより低い傾向にありました。このデータのみを過信して、入浴の「有益な効果」を示すと結論づけました。この例を考える際に、対照実験か自然実験かという視点が必要です。つまり対象者がランダムに選ばれ、変数が操作されない実験を経なければ、これが因果関係かどうかを判断することは難しいのです。定期的に入浴する人は一般的にストレスが低く、リラックスするための時間の余裕がより多いことが、心疾患の発症率が低い真の理由かもしれません。しかし、こうした調査結果は次のような見出しとともに広く拡散されています。「入浴はリラックス効果だけでなく、心臓にもよい可能性あり」。将にミスリードされた情報です。
 人間は自身の先入観を裏付ける証拠を探し求める傾向があり、自分の仮説に反するかもしれないデータは無視しがちです。データがどのような経緯で作られたのかに関する重要な側面には目を向けません。一般的には、最も重要なデータが欠けていても、目の前にあるデータを重視してしまいます。ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンが言ったように、「自分が見たものがすべて」になりがちなのです。
 データを分析し、因果関係が主張されたら、必ず多角的に検証することをしなければなりません。その為の能力・スキル(論理的思考、仮説思考、統計学、データサイエンスなど)を獲得する必要があります。こうした能力は、これからの企業のリーダーにとってますます重要となっていきます。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)