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2022年3月14日

「無駄かなと思うこと」に向き合う重要性 〜自然さと冗長さの境界で〜

 日々様々な業務に邁進し、効率化、生産性向上を念頭に試行錯誤を繰り返せば繰り返すほど、一見ムダで非効率なものが目につくものです。「生産性を高めたい」、「労働時間を削減したい」こうした要望は組織の誰もが抱いていることです。実際に組織の中に足を踏み入れ、注意深く観察してみると、「無駄かなと思うこと」に数多く遭遇することがあります。

例えば、
■業務の合間にタスクと関係ない情報を検索してネットサーフィンしている社員。
■営業活動中にカフェに立ち寄ってアレコレと物思いにふけっている営業担当や、同僚と連れ立ってコンビニや喫煙所に行く若手社員たち。
■アジェンダは一通り済ませているにも関わらず会議終了後も談笑している管理職たち。
■「宴会部長」を自称する事業部長が、業務を強制終了させてまで開催している大規模な花見企画。
■総務部のベテラン社員が定時後に外部ゲストまで招聘し、会議室を使って開催している「一般教養講座」

などなど・・・

「それ仕事に何の関係あるの?」と訊かれたら説明することが難しい「無駄かなと思うこと」が企業内に存在します。

 ある部長が「ナレッジ共有が大切!」と独断で導入を決めた社内SNS。今や雑談スペースになってしまっているという事例もあります。

「エメラルド」とか「ユニコーン」など妙にカッコイイ!名称が付いている割には、どう考えても有効活用されていない会議室。

 もう何年も「物置」と化している事業部間に横たわる広大なデッドスペースなども含まれます。

 こういう一見「無駄かなと」思えるものたちに、私たちはどのようなラベルを貼り付けるべきでしょうか。本当に無駄なのでしょうか?

 私はこの判断に時間をかけるべきだと考えます。

 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリという著名な作家が大切な言葉を伝えています。

「大切なことは、目には見えない」

 明らかに「無駄」に見える行為であっても、それによって職場で働くことの豊かさや幸福感を感じている人がいるかもしれない。他人から見れば意味を感じられないようなイベントであっても、そこにはいくつもの重要な「物語」が埋まっていて、それに背中を押されている人がいるかもしれない。
ネットサーフィンによってイノベーティブな仕事が進むこともあるとされています。

 そうなると、どこまでの「無駄」を省けばいいのでしょう。何を職場の生態系を保つために必要な自然さ(naturalness)と見なし、何が職場機能を損なう冗長さ(redundancy)と見なすのか。その判断基準は容易くはありません。
 そもそも、自然さと冗長さに線を引くことはできないのかもしれませんが、仮に妥当な判断を下さなければならないとしたらどのようなスタンスが求められるのでしょうか。
 「境界」に立つという考え方を提示したいと思います。「内」と「外」の両方の眼差しを併せ持つために尽力するという考え方です。「内」の視点で「無駄かなと思うこと」と深く関わり合い、その価値や意味を体感しつつ、一方「外」の視点で組織社会の健全性や効率性を冷静に判断する。ジレンマに悩みながら、もっとも社会が豊かになるための思考を回し続ける。このような考え方が大切なように思います。こうした考え方を愚直に継続できる人間だけが「最適解」に辿り着けるような気がします。

常に揺れ動き、悶々とする。

一貫性なく思考し、思い悩む。

 こうした態度でしか「無駄かなと思うこと」には向き合うことはできないのかも知れません。

 多様化・複雑化が進む社会です。何が大事なのか、本当の価値を理解することも難しい時代になってきました。自分なりの志や価値観を持つことも大切ですが、時にはにそれを全てリリース(断捨離)して揺らぎ続ける姿勢も必要なのかなと思います。いかがでしょうか。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)