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2022年3月30日

コロナ禍での新入社員受け入れ(メンターや雑談、テレワークでも新人が育つ4つの環境)

 4月1日に入社式を行い、新入社員を迎える企業も多いかと思います。古今東西、新人とは、新しい環境に適応しなければなりません。このような適応プロセスを経営学(組織行動論、人的資源管理論、HRM論など)では「オンボーディング」と呼びます。
 オンボーディングは人事の世界で近年、注目を集めている考え方の一つです。新型コロナウイルス感染症の影響でオフィスに集まることが難しくなり、テレワークが増えました。テレワーク環境で新人を受け入れる企業もあるでしょう。では、テレワークにおけるオンボーディングの方法について考えてみましょう。

①テレワーク下のオンボーディングとは
 オンボーディングは対面の場合(オフィスで新人を受け入れる場合)と、テレワークの場合とで事情が異なります。テレワークにおいて新人は、同僚や先輩(中途入社の場合は後輩も含まれます)、上司と離れて働くことになります。
 残念ながら、テレワーク下のオンボーディングは、新人にとって困難であることが数々のデータや調査結果からわかっています。というのも、テレワークにおいて新人は周囲から孤立しやすく、適応に必要な学びが行い難いからです 。
 例えば、新人が出席するウェブ会議の中で、カメラをオフにしている同僚がいたとします。オフィスとは異なり、偶然、誰かと出くわすことのない環境です。こうした環境が積み重なって、新人は自然と孤立感や孤独感を抱くようになります。
 また、新人は仕事を進める際に必要な文書の保存場所が分からず、苦労します。普段なら隣席の先輩に一言聞けば済む話も、テレワークではそうはいきません。
 そもそもテレワークが本格的に導入される前は、新人の多くは、口頭で確認しながら仕事を行っていました。仕事に関する文書が整備されていない企業も少なくありません。テレワークでは、新人は働く上で必要な情報が得にくい状態にあります。
 裏を返せば、対面下のオンボーディングでは、かつては、新人の学び(経験学習)が意識しないうちに自然発生していたと言えます。テレワーク下では、相当意識しない限り学びが起きにくく、企業側にも新人側にも能動的な働きかけが求められます 。

②テレワークのオンボーディング方法
 困難な環境にある、テレワーク下のオンボーディング。どうすればオンボーディングが円滑に進むのでしょうか。ここでは、4つの対策を記載します 。

■メンター制度を活用する
 新人に対するメンター制度を活用しましょう。言語化されていない情報をメンターから新人に伝えることができます。すべての内容を言語化できない以上、メンターの存在は大きなものとなります。
 テレワーク下の新人にとって難易度が高いのは、人間関係の構築です。人と人は対面で言葉以外の情報(身ぶり手ぶり、視線など)をやりとりすることで親密になりますが、テレワークでは、そうはいきません。
 こうした状況に対して、企業側がメンターをアサインすることで、新人の相談相手が決まっている状況になります。困ったときに誰に話をすればよいのかが分かっていると、新人は非常に助かるでしょう。安心もします。
 通常、メンターと言うと、異なる部署の先輩が務めることが多いかもしれません。しかし、テレワーク下では同じ部署の先輩が担うことを推奨します。仕事に関する具体的な情報をもらえるからです。

■非公式(カジュアル)なコミュニケーション
 仕事の指示や助言以外のコミュニケーションを、新人との間で交わしましょう。既に述べた通り、仕事の情報は確かに大事です。しかし、仕事以外の話をすることで、新人は職場のメンバーと仲良くなることができます。
 自然に会話が生まれる対面とは異なり、テレワークにおいて、新人は周囲との関係を構築しにくいものです。新人は仕事の情報を職場メンバーから受け取るため、非公式コミュニケーションを通じて、新人の関係構築を支援しましょう。
 例えば、新人と職場メンバーが15分ずつ、1対1で話をする時間を設定するなどの方法があります。堅苦しい話をする必要はありません。とにかく話をすることが大事です。一度でも話をしたことがあれば、仕事の中で声がけをしやすくなります。

■DX(デジタルツール)の利用
 テレワークにおけるコミュニケーションを豊かなものにするには、様々なツールを用いなければなりません。テレワークの導入に伴ってテクノロジーは大きく進展しています。
 チャット、ウェブ会議、メール、電話など、さまざまな方法で新人に話しかけ、情報を提供しましょう。積極的にツールを利用することで、新人とのやりとりが増えます。オンボーディングに必要な情報が行き渡ることでしょう。
 ツールの使い分けに際しては、すり合わせがどの程度必要かを基準にすると良いでしょう。やりとりを通じた調整が必要な場合、ウェブ会議や電話など、言葉以外の情報を受け取りやすいツールを用いるのが効果的です。逆に、すり合わせの必要がない情報伝達においては、チャットやメールを活用しましょう。

■同僚メンバーの可視化
 新人のオンボーディングは、新人に対する直接的な情報の提供だけで進むわけではありません。「観察学習」と言って、新人は職場メンバーの働きぶりを見て、そこから学びを得ています。
 ところが、テレワークは新人の観察学習を難しくします。職場メンバーの働く様子が見えないからです。テレワーク下のオンボーディングを促すためには、職場メンバーを新人に「可視化」しなければなりません。
 例えば、資料を作成する際に変更履歴をつけて、新人にも作成プロセスをイメージできるようにするといった方法があります。
 他にも、新人以外のメンバーが、その日の仕事の進捗を職場メンバーに報告するのも有効でしょう。その際、どんな業務をどのように進めたかだけではなく、業務遂行に際し、大事にした点もあわせて報告すると、新人にとって学びの機会になることもあります。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)