2022年4月7日
多くの企業では、経営理念やビジョン(あるいはこれらに類似するもの)を掲げていると思います。一方で、現場の社員(メンバー)に経営理念やビジョンの話をすると、『ビジョンや理念なんて、部下の誰も意識していないよ。マネジメントに必要なのか?』といった寂しい、醒めた返答が返ってくることも多いのではないでしょうか? これまでは、ビジョンや理念を誰も意識しなくても、企業として何とかやってこられた。昨今では環境も大きく変化しているが、新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった慣行のもとでは、学校を出て、最初に入った会社から飛び出ることを真剣に考えたことのない人が(伝統的な企業では特に)結構いるのが実態です。 ”現在の会社に居続ける理由” を特に考えないまま、不平不満を言いながらも働き続け、定年を迎える。また、海外と異なり、日本のように、ほぼ日本人だけで働いている環境下では、”阿吽の呼吸” が重宝される。同じメンタリティを持った集団なので、「言わなくてもわかるだろう」がまかり通ってしまう。こうした状況なので、自分や周囲の人の業務や発言に疑問を持つことが少ない。なぜこうなのか(Why)を考えない。それより何をやるか(What)やどのようにやるか(How)に意識や関心が集中してしまうようなことはないでしょうか? 多くの社員(メンバー)は、自分たちの存在意義(理念)への意識を持つことなく、目指す姿(ビジョン)にも関心を持つことなく、与えられた業務を粛々とこなして過ごしてきただけではないでしょうか? これからの時代はどうなるでしょう?例えば、中途採用は今やどこの会社でも当たり前に行っています。異なる文化や価値観で育った、ユニークで、尖った人材が組織に加わることで、”自分のたちにとっての当たり前” が揺さぶられることが生じます。世間には転職に関する情報が氾濫しており、良さそうな会社に関する情報が簡単に手に入ります。キャリア意識の高い、若くて優秀な社員は、そういった情報に惹かれ、転職してしまうリスクもかなり高くなっています。 また、日本の労働人口の減少に伴い、我々の価値観の通用しない、外国人労働者の力が必要になってきています。国内市場の縮小化に伴い、組織の成長・発展を求める企業は、海外進出を図り、海外のブランチ(支社)や工場で外国人労働者を雇用し、同志として仲間に育てていく必要もあるのかも知れません。 こうした一連の変化を鑑みると、これまでのような、”阿吽の呼吸”や、「言わなくてもわかるだろう」に頼ったマネジメントが通用しなくなるのは火を見るよりも明らかでしょう。 現在は、自分たちは何者なのかという存在理由(理念)を考える場面が出てきており、優秀な人材を惹きつけたり、居続けてもらうための魅力をビジョンや理念として提示することが、これまで以上に必要になってきています。更には、社会的に「多様性を大切にしよう」という風潮も定着しつつあります。組織としても、年齢やジェンダー、価値観、人種、国籍などの ”違い” を経営に活かしたいと考える傾向が強まっています。多様性豊かな組織の方が、画一的な組織よりパフォーマンスが高いことが明らかにされているからです。(マシュー・サイド 著『多様性の科学』ディスカヴァー 2021年) 多様な人材を束ねるには、マネジメントに軸(判断軸)となる要素がなければなりません。多様性は組織にとって ”遠心力” になります。つまり、組織をバラバラにする力を持っています。多様性を大切にするからこそ、組織を束ねるために遠心力に抗う力(求心力)が必要なのです。 共通の目指すところ(ビジョン)や、国や言葉、人種、価値観などが異なっていても、共に働く理由(理念)が「軸」に該当する。 行動指針(バリュー)も「軸」と捉えて良いでしょう。 これからの時代は、マネジメントにビジョンや理念が必要なのです。改めて、自社の理念やビジョンを眺めてみましょう。 眺めてみたら、次にはマネジャーの出番です。理念やビジョン・理念に紐づけて、自組織のビジョン・理念を打ち出し、メンバーに伝えることが重要です。自分たちの目指すところ(ビジョン)、自分たちの存在意義(理念)をメンバーに示し、自分たちの日々の仕事は(大変だけれども)価値のあるもの、重要なものと捉えられるように仕向けるのです。短期的な目標で発破をかけたり、1on1などで雑談したりなどして、部下を動機づけるだけでなく、組織の将来(ビジョン)を語ったり、自分たちの存在意義や存在価値(理念)を語ることで、部下をモチベートし、生産性の向上や成果につなげることもマネジャーの重要な役割だと思います。もう数字(数値目標やKPI)だけでマネジメントする時代から卒業する必要があります。 いかがでしょうか。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長
1996年早稲田大学卒 2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉 1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。 その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。 現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長 ■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員 ■2級キャリアコンサルティング技能士 ■産業カウンセラー ■大学キャリアコンサルタント ■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)