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2022年12月26日

「職務(ジョブ)給」と「職能給」から考える最適な雇用(人財)ポートフォリオ

 所謂「ジョブ型」という言葉について、多くの職場で議論が喧しいことかと思います。仮に、ジョブ型≒職務型と考えると、職務給と職能給の比較の議論になるかと思います。柔軟な人員配置(必ずしも適材適所ではない)では、職能給優位です。働きぶりを評価するので、労働者のモチベーションも喚起できます。例えば、5人が同じ業務を担当している場合、職務給では、各人の働きぶりに関係なく同一賃金ですが、職能給では、一人ひとりの働きぶりを評価し、“人(ヒト)”を基準に賃金が決まります。こうなると公正に評価可能であれば、職能給の方がベターに見えます。しかし、一人ひとりの能力やスキルを公正に評価するのは困難です。人事評価の作業は、直接利益を生まないので、手間を省こうとして、前例を踏襲した評価結果になりがちです。
 また、企業は組織ですから、多くの組織はヒエラルキー型になります。課長や部長のポスト数は固定されていることが多いです。職務給は、ポスト≒役割ごとに賃金を決定する仕組みですから、人件費は固定されます。非正規雇用者から抜擢しようと他部門から横滑りしようと、人件費総額は理論上不変です。誰を登用しようと費用が一定であれば、最も適任の人が選ばれやすくなります(適材適所の実現可能性)。一方で、職能給では、人の能力やスキルを評価して賃金を決定します。下位等級から抜擢すれば能力やスキルが向上したからだと評価したことになり、人件費は増加します。管理職が部下の評価を甘くしてしまうと、人件費がかさむことになるのです。一般に、本社人事部が人事管理の権限を現場に委譲しないは、こうした背景があるためです。さらに、非正規雇用から正規雇用への転換がなかなか進まない理由のひとつは、現場管理職の権限が小さいことだと言われています。
 職務給と職能給のどちらかを軸に賃金制度や評価制度を構築しても、昇給や昇進を伴う長期雇用によって、見えにくい(可視化できない)仕事にもインセンティブを与えますが、現代では、ITが発展し、見えにくい仕事も可視化されるようになってきました。人の経験や技能で処理してきた業務を、AIやロボット、アルゴリズムで処理できるようになったのです。その結果、短期的な雇用(ギグワーク)とフリーランスで働く人が急増しています。こうした働き方は流動的ですが、スキル形成が促進されず、十分な賃金(報酬)が得られないことが社会問題化しています。
 最適な雇用・人財ポートフォリオとは何か?皆さんの企業でも再検討されてみてはいかがでしょうか。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)