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2023年2月7日

テレワークとの上手なつきあい方 ~テレワークの功罪をハイブリッドする視点~

 コロナ禍にあるニッポンですが、日常回帰への兆しも見えてきました。政府は、2023年5月8日より新型コロナ 「5類」への移行を決定しました。今後、私たちの職場環境やビジネスへの影響も大きいのかも知れません。
 コロナ禍で働き方改革を大きく前進させた企業が多いですが、中でもテレワークによる新しい働き方は、多様な働き方を実現していく上で大きな選択肢となっています。日本生産性本部によると、コロナ第8波時期におけるテレワーク実施率は16.8%(日本の企業・団体に雇用されている20歳以上の1100人を対象にインターネットで調査)という現状です。勿論業種、職種、地域によりバラつきはありますが、これまでの推移も含め、概ね20%前後のテレワーク実施率といったところでしょうか。
 では、テレワークは組織で働く私たちにどのような影響を及ぼすのでしょうか。あらためて整理してみましょう。
 テレワークが働く人に与える影響を検討した調査・分析・研究は数多くあります。それらによると、テレワークは総じてプラスの効果を与えます。例えば、テレワークはオフィスワークよりもパフォーマンスが高いことが分かっています。他にも、テレワークの方が仕事の満足度が高いというデータもあります。さらに、テレワークを行う人は、会社や組織に対するコミットメントも高い傾向があるというデータもあります。
 では、テレワークのプラスの効果とは、具体的にどのような内容なのでしょうか。
 第1に、テレワークは自律的に仕事を進められる点があります。上司と部下、同僚同士が物理的に離れて働くのがテレワークです。お互いの仕事を統制しにくいため、自律的にならざるを得ません。自律性が様々な好影響をもたらすことは、古くから指摘されています。 
 第2に、テレワークでは上司との関係が良好になる傾向があります。直接会えないのに上司部下関係が良好とは何故なのでしょう。上司は、部下にとって会社を代表する存在になります。上司との関係が良いと、会社との関係も良くなります。仕事を進める上でも、上司との関係は重要で、仕事の満足度や成果にも影響します。テレワークを行う人間の特徴も関連している可能性があります。テレワークを実践する人は、例えば専門性が高く、自律性を望んでいる傾向が強いのかもしれません。専門性の高い人は仕事の成果を残しやすく、自律性を望む人であれば裁量の大きいテレワークと相性が良いと言えます。
 上記以外にもテレワークによるメリットは多数調査・分析されています。
 一方で、話題になるのが、非自発的なテレワーク。コロナ禍に伴うテレワークを自分で選んだ人ばかりではありません。感染が蔓延して、オフィスに出社できなくなり、テレワークせざるを得ない人も一定程度存在したと思います。注目すべきは、テレワークを望まない人たちが感じる負(マイナス)の側面です。
 例えば、非自発的なテレワークが増えるほど、仕事と家庭の葛藤が増える傾向にあります。非自発的なテレワークでは、物理的な準備(オフィススペース、PC環境、通信環境等)も心の準備もできていません。そのため、テレワークを行うことで、仕事と家庭を両立しにくくなります。また、両立する自信も持ちにくくなります。
 非自発的なテレワークがうまくいかない、もう一つの理由があります。それは本人のニーズに合っていないことです。ニーズに合わない働き方をすると、仕事や会社に対する態度に悪影響が出ます。例えば、希望と実際の勤務時間数が乖離していると、仕事への満足度や会社や組織へのコミットメントが低下してしまうことがわかっています。
 テレワークは仕事と家庭の境界を曖昧にします。その結果、ストレスが高まって、燃え尽きや離職したい気持ちが引き起こされているというデータも存在します。
 結局、テレワークはプラスとマイナス、どちらの影響もあるのでしょう。皆さんの会社や組織でもプラスとマイナス双方の影響を加味した導入、継続判断が求められます。
 テレワークを積極的に導入しようとした場合、有効性や実効性を高めるには何をしたら良いでしょうか。以下4つの視点をご紹介します。
①仕事を重ね合わせる(個業ではなく協業)
②意思決定への参画
③雑談(対話を含む)の時間確保
④心理的安全性の確保

 テレワークと上手につきあう為の視点1つ目は、仕事を重ね合わせる(個業ではなく、協業)ことです。そのためには、チーム単位で仕事を任せましょう。例えば、あるプロジェクトをタスクに分解して個々人に依頼するのではなく、プロジェクトを丸ごとチームに依頼するのです。チーム単位で任せると、チーム内で仕事が重なりやすくなります。仕事を進める上で声かけが必要になります。ただし、過度の役割分担や分業をしないように見守る必要はあります。
 2つ目の視点は、意思決定に積極的に参画してもらうことです。例えば、物事を決める際に意見を聞くようにしましょう。独断を避けます。皆の意見を聞く目的で会議をしても良いですし、個別にチャットなどを通じて尋ねる方法もありです。 
 3つ目の視点は、雑談の時間を確保することです。「雑談してくださいね」と声がけするだけでは進みません。例えば、アジェンダのないウェブ会議を設定してみてはどうでしょうか。無理に話題を構造化せずに、単純に会話をする時間を確保するのです。一対一の状況を作るのも有効かもしれません。会話をせざるを得ない状況になるからです。雑談が自然と生まれるでしょう。ただし、何を話すかを事前に準備するのは避けましょう。そうしないと即興のコミュニケーションが生まれません。はじめはぎこちないかもしれませんが、続けているうちに慣れてきます。慣れる頃には信頼関係が醸成されているでしょう。
 4つ目の視点は、心理的安全性を醸成することです。テレワークにおいては、心理的安全性が高いほど職場の学習が進み、成果も上がることが実証されています。心理的安全性とは、対人関係のリスクを取っても大丈夫だと安心することです。心理的安全性は、人事領域で最も注目を集めている概念の一つです。心理的安全性を醸成するためには、部下が上司に相談しやすい環境をつくりましょう。とはいえ、忙しい日々の中では相談するのも気が引けます。
 そこで、相談の時間を確保すると良いと思います。例えば、月に1回のペースで、相談のミーティングを実施すると良いかもしれません。月曜の午前はチャットで相談を受けつける時間にする、といった工夫もあるかもしれません。いずれにせよ、定期的に相談の時間を確保します。上司から部下に対して相談するのもおすすめです。そうすることで部下も、「ここでは相談して良い」と思いやすくなります。心理的安全性を醸成するために、上司から積極的に行動を起こしていきましょう。
 コロナ感染が落ち着きを見せている現在、テレワークについて効果的な導入と、ハイブリッドによる多様な働き方について、再度社内で議論するタイミングかも知れません。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)