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2023年11月13日

企業研修の変化(学びの主導権は組織から個人に)

 皆さまの企業での研修は、どのような目的で、どのような体系で、どのようなスタッフ(専門性・人数・システム)で企画、実施されていますでしょうか。
 1990年代までの企業研修を振り返ってみますと、「業務に必要なスキル」は、企業組織内で考え、そのスキルを効率的に獲得できるように、人財開発(研修)部門が中心となり、OFF-JT(集合研修やE-Learning)やOJTが企画・開催されていました。しかし、2000年代以降現在に至るまで、大きな変化を続けています。
 かつては、「同じ量・質のスキルを有する人間」が、同時に数多く存在する状態が望ましいとされていました。こうした時代には、「正解」のあるトレーニングを通じて、「正解」を教え込むことで、同じスキルを持った人(画一型人財)が効率よく大量生産されていました。しかし、産業構造が変わり、職場で必要なスキルが複雑化してからは、仕事を通じてスキルを獲得すること、個々人がそれぞれ異なるスキルや経験を持つことが求められるようになりました。
 近年注目のパーソナライズドラーニング(個別化された学習)の流れでは、一人ひとり自分に合った学習内容・学習スタイル・学び方が求められます。学習テクノロジーの進化もあり、より個別性の高い、オーダーメイドの学びを実現することができるようになりました。結果、学びの効率化・省力化が進みました。
 そして、コロナ禍になり、「学びの個別化」は一層加速されました。某民間調査会社が2016年から2022年の7年間の学習行動について調査を実施しました。コロナの影響で2020年には集合研修を前提としたOff-JTの頻度が大きく減少しました。その後2022年にやや上昇傾向が見られるものの、パンコロナ以前の状況には戻っていないのが実態です。
 コロナ禍で、社内の集合研修は減少し、学習機会は個人に委ねられ、オンライン学習が主流になりました。しかし、個人の学習行動に着目すると、2020年にはOJTや自己啓発の機会も低下しています。私がヒアリングした企業からは、豊富なオンライン講座を用意しても学んでいる人は繰り返し学ぶが、学んでいない人はいくら呼びかけても参加しない、という声が数多く聞こえてきます。謂わば、学びの二極化です。

 このような状況の下、人財育成(研修)担当者の課題は、「社員を自主的に学ばせるにはどうすればよいのか?」、「具体的に何を学ばせたらよいのだろうか?」、「必要なスキルが高度化・専門化する時代に、会社としてどのような支援のあり方が望ましいのだろうか?」といったことが考えられます。一方で、学習プログラムを豊富に用意したとしても、これまでのような、組織主導で「学ばせる」という発想では、個人の学び行動が促進されるとは到底思えません。
 この課題を解決するには、「どうすれば主体的に学ぶ人を増やせるのか」という答えの見えない問いに固執することから脱却し、「自ら学びたくなる職場はどのような雰囲気か?」と課題を変えてみる(メタ思考による視座の変化)ことがヒントです。前者の課題の主体は組織にあり、後者のそれは個人にあります。個人の主体的で継続的な学びを促進するには、学びの主導権を個人に移す必要があります。そのために個人が学びたくなる環境作りの支援をすることこそが、人財育成(研修)門に求められる「学びの支援」なのではないでしょうか。人財を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる人的資本経営の観点を持ち、マネジメントを変えなければ、この問題は解決しないでしょう。

 社員のどのような学びを支援するのか。ポイントは、正解習得型の学びから対話型の学びへの変化を支援することです。対話型の学びとは、学術的には、様々な定義がありますが、「他者とのコミュニケーション行為を通して対象の意味を探究する行為として展開される」と捉えています。対話としての学びでは、知識を個人の中で所有するものとして捉えるのではなく、「人々のなかで共有し、知識を公共性に開かれたものにするところに成立する学び」です。共有、公共性という言葉がキーワードです。学びを組織内で共有し、会社全体の財産にする。更には、社会貢献にも役立てるといったところでしょうか。
 まずは、これまで企画、実施してきたOJTや階層別研修の枠を超え、組織の学びの場(コミュニティ)づくりにチャレンジしてみるのはいかがでしょう。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)