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2024年5月2日

「人材」と「人財」 言葉の解像度に敏感になる

 昨今、労働力人口減少や失われた30年の反省、働き方改革(多様化)の定着などの背景から従来以上に働き手を大切にしようとする企業が増えています。残業規制や育児介護休業制度の拡充、テレワークや兼業副業、アルムナイネットワークなどを導入する企業の増加はその象徴です。
 他方、パーパスという言葉が流行している通り、企業が掲げる「理念」に親しんでもらうことで、職場の一体感を醸成しようとする取り組みも健在です。グローバル企業では、社訓を英訳し、海外事業所で共有したり、地域での職業体験事業への参加を通じて、社員に理念の精神性を浸透させたりするといった戦略的理念経営も大きなトレンドです。
 労働力の流動化が進み、1つの企業に勤め上げることが一般的ではなくなりました。人材の囲い込みに尽力する経営層の動向は、ある種の「揺り戻し」現象かも知れません。こうした流れを経て、「人財」という言葉、あらゆる層に普及していきました。人材ではなく人財。正社員だけでなく、非正規、在日外国人、女性、高齢者など多様な人々を即戦力化する動きが顕著です。低成長下でも業績に好影響を及ぼしてくれる「人財」の確保は、企業にとって「メシア(救世主)」とも言えます。
 人事の世界では、「人財」を巡る考え方もここ数十年で大きく変化してきました。企業に対し、「成長できるか」、「仕事ができるか」という観点から、働き手の人間性を評価するような動きも拡がりました。働き手は、単に目先のスキル(資格取得が代表的)獲得のための自己啓発に奔走するだけでは企業に貢献できない時代に入りました。ここには当然AIやロボティクスによる雇用・労働代替、コモディティ化の問題も存在します。
 失われた30年、日本全体が漂流した時代に登場した「人財」という言葉。それは、組織の生き残りを賭けた功利主義的視点と、企業側の「選民主義」を象徴しているようにも伝わります。一方で、それまでの「人材」というコストではなく、「人財」という資本であるという側面(人的資本管理)も重視されいます。私達は、「人材」と「人財」という言葉を峻別し、呪力としっかり向き合いながら人事マネジメントを行う必要があるのかも知れません。
 「人材」と「人財」以外にも「リカレント」と「リスキリング」など解像度を上げて議論や対話をし、言葉に敏感になる職場にしたいものです。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)