コラム一覧

2024年6月11日

管理職は割(コスパ、タイパ)に合わない?の真実

 公益財団法人日本生産性本部の「新入社員働くことの意識調査結果(2022)」では、新入社員の多くが「役職に就きたくない(約60%以上)」と回答しています。様々な理由(個別事情も含む)がありますが、その多くは、「割に合わない」、「会社に縛られたくない」という思いが背景にあるようです。
 昨今、Z世代を中心に、“タイパ(タイムパフォーマンス=時間対効果)”で物事を判断する傾向が強まっています。
 『マイナビ2023年卒大学生のライフスタイル調査』によると、人生において優先度の高い要素は、「家族」>「仕事」>「趣味」や「自分」の順番となり、「仕事」については、19卒以降優先度が減少し、「自分」や「趣味」が増加しています。自分や自分の時間を大切にするという価値観を重視している傾向が伺えます。男女別の結果を見てみると、特に男子の「仕事」の減少幅が大きいです。管理職になると、組織や仕事に強くコミットすることが要求される場面も多くなり、割に合わないと感じる大きな理由なのかも知れません。出世すると会社の意向に従う場面が多くなり、自分のキャリア形成においてマイナスと感じる人が増加しているのかもしれません。
 一方で、「専門技術を磨きたい」、「組織に縛られず人脈を広げたい」といった指向もあり、自身の都合に合わせたキャリアのいい所取りを狙っているようにも思えます。割に合わないという感覚について、より実態を把握するために、私が独自にヒアリング調査を実施しました。結果、次の3点が割に合わない理由の真実であることがわかりました。
①そもそも管理者の役割や何が期待されているのかわからない
②新人や若手人財を育成することの労力や苦労が多すぎる
③会社や事業の将来など不確実性の高い未来に不安を感じているため、所属している会社(企業)に過度にコミットしたくない
 この3点は、いづれも人事マネジメントや組織戦略など日頃人事担当者が抱える課題とオーバーラップします。①については、等級制度、職務権限規程、管理職研修等で管理職の役割や期待感を伝える機会は多いと思います。しかし、現実には伝わっていません。ビジュアル化、ロールモデルによるナラティブ(語り)、当事者による魅力的なキャリアの紹介など人事部門を中心に伝える工夫を再検討する必要があります。②については、OJT(On the Job Training)に課題を抱えているケースが多いようです。OJT場面では、仕事のやり方に加え、心理的関係性の構築やオンボーディング(組織社会化・組織への定着支援)が主たる目的ですが、OJT担当者(リーダー)の偏った経験を閉鎖的関係性の中で一方的に伝達するケースが見られます。これでは、OJTというより、洗脳、刷り込みであり、人財育成効果は皆無です。閉鎖的関係性から開放的関係性でOJTを捉え直し、1人でも多くの人間が関わり、“面”で人財育成を行おうという考え方が重要です。③については、将に経営課題です。昨今の流行り言葉で言えば、パーパス経営に該当します。会社や事業の未来について、経営者自身が明確に描けていないケースも多いです。特に中小企業経営者は、孤独感を感じるケースが多く、外部に有益なネットワークを持っていないケースも多いです。経営者であればこそ、積極的に社外に出て、ネットワークを構築し、会社や事業の未来について、柔軟で多様な発想で考える習慣を身につけることが必要かも知れません。人事担当者は、サポート(参謀役)が期待される役割でもあります。
 若手や新人が管理職は割に合わないと感じるようになった責任は、過去に管理職を経験した経営層や現在管理職に就いている皆さんにあると、自戒を込めて強調したいと思います。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)