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2024年11月11日

役職インフレ化による実態とのズレ

 中小企業で目にすることがありますが、本部長や部長という肩書の人が課長レベルの仕事をしていることがあります。例えば、「毎月の営業数字を追いかけている」、「現場担当者の業務を巻き取り、細かい指示(マイクロマネジメント)してしまう」、「日々の業務を回すことが中心で、人材育成に手が回らない」、「現状の人員で何とか業務を回そうとする」・・・。役職でイメージされる仕事内容と実態にズレが生じ、組織全体が眼前(直近)の業務に追われ(近視眼的)、中長期の将来像をイメージできない状態です。
 本来、毎月の営業数字は課長に責任があり、本部長や部長は年間計画や中長期課題への責任を担うはずです。ですが、役職者が短期的業績に意識が集中すると、短期業績の結果ばかりが気になり、頻繁に課長が部長に報告し、部長が本部長に同様の報告をするようなことになります。過度な報告業務(伝言ゲーム)がはじまり、中間に位置する課長は、調整業務ばかりで疲弊することになります。
 同時に会社の将来についての重要な議論取れませんが抜け落ちてしまいます。本部長や部長が課長の業務をしている場合、あまりに現場の状況に詳しすぎるために、毎月の営業数字獲得への関心が高くなり、業務時間の大半を費やします。これでは中長期の戦略を描き、業務改善しながら生産性を上げていく時間が取れません。
 人事領域については、3年後、5年後にどんな組織を作っていきたいか、そこに向け不足する人財やポストはどこかといった、将来について考える時間が不足しがちになり、内部の人財育成・選抜、採用計画を立てることができず、必要な人財を確保できなくなります。
 ではどうすれば良いのでしょう。まずは、基本ですが、管理職の役割を再度明確にすることを考えましょう。特に隣接する部長と課長、課長と係長といった役職や、「副」、「代理」、「サブ」がつく役職に関し、本来期待する役割を再検討し、実態を棚卸してみることをおススメします。役割が不明瞭なまま、昇格基準が慣性運用され、気づいてみると役職者ばかり(管理職比率が30%超え)が増えてしまう会社を目にすることがあります(役職インフレ化)。指揮命令系統が錯綜するだけでなく、意思決定スピードが落ちたり、責任所在が曖昧になるリスクを抱えています。
 期待する役割が明確になったら、現状役職者のアセスメントです。適材適所にも関係します。若手の抜擢を積極的に行った場合、能力や経験が不足しているために期待する役職を担えないケースも出てきます。何らかの支援(サポート)が必要です。社内研修の拡充はもちろん、すでに役職を退いた経験豊富な人財をメンターとして活用することも有効です。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)