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2025年5月1日

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)はマネジメント現場で曲解(亜種、変種)する

 企業経営や組織マネジメントでMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の大切さが語られ、取り組んでいる企業は多いと思います。わかりやすく言語化したり、イメージ動画を作成してみたり、仕事の場面で実践した体験をシェア(共有)したりと、組織の実情に合わせて取り組みを工夫されています。
 
 ビジョンやミッションは、将来の理想像とその実現に向けて取り組む使命です。バリューとは、現在の組織のメンバーが自社製品やサービスを顧客に価値提供する上で必要な行動基準や価値判断です。特に昨今では、名だたる企業の組織不祥事が相次ぎ、MVVの重要性を再認識している企業も増えています。

 私がかつて在籍した経験のある外資系企業では、メンバーの国籍、人種、文化、価値観の多様性から、職場の一体感(求心力)を醸成するためのバリューが重要になります。バリューが確立、浸透していないと、個性豊かなメンバーに遠心力が作用し、組織がバラバラになるリスクもあります。これに対し、JPC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)に代表される日系企業では、終身雇用、年功序列といった日本的雇用慣行を温存し、新卒一括採用による同質性が特徴です。全て悪いことではありませんが、組織不祥事に代表されるように、時としてマイナスに作用することもあります。皆さんも一つ二つ具体的な事例が頭に浮かぶことでしょう。

 MVVについて、現場マネジメントを担う管理職の意識に着目してみると、営業部には営業部の、開発部には開発部の、技術部には技術部の三者三様のMVVがあることに気づきます。そもそも全社で決定、展開されているのがMVVですが、各部署の実態に合わせて、否、都合の良い解釈でMVVが曲解されることがあります。私はこれを、“ローカルMVV”と呼ぶことにしています。各職場で長年蓄積されてきた成功体験に基づく判断基準や価値観。これが慣習となってメンバーの言動に大きな影響を及ぼします。
 例えば、経営層からの指示や全社的取り組みに対しても、本音と建て前を使い分けて対応します。よく耳にする経営トップの考えや行動が組織の末端まで浸透しないのは、“ローカルMVV”を優先し、指示や取り組みが曲解されてしまうからです。職場には、複数の上司によってダブルスタンダードや以心伝心、阿吽の呼吸が要求され、コミュニケーション不足や物が言えない風土を醸成します。メンバーはこうした風土に閉塞感や窮屈さを感じながら仕事を継続することになります。
 では、どうすれば曲解された“ローカルMVV”を健全な“ローカルMVV”に変えることができるのでしょう。例えば、こんなことを考えてみてはいかがでしょう。

◆言葉にして比較してみる
 全社のMVVは、言語化され、見える化されているのに対し、ローカルMVVは、他者からわかりにくく、認識しずらいものです。ですが、職場のメンバーにガッツリ内面化されています。どんな場面でローカルMVVが意識されるのか?ローカルMVVが判断基準になると、どんなことが起こるのか?といった点について、ファシリテーターを設置し、部署ごとに体験談をシェアし、言語化して、比較検討することをおススメします。

◆ミドルマネジメントにとってのローカルMVVを考えてみる
 ローカルMVVを最も意識し、マネジメントに影響させているのはミドルマネジメントです。自分の組織の目標達成、メンバーの育成、自身のキャリアアップなど、日々生々しい具体的課題に直面していると、抽象的で現実感の乏しい全社のMVVよりも、リアルで実践的なローカルMVVに基づき判断、行動した方が成果に結びつきやすいのかも知れません。この点は、よく理解できますし、共感できる方も多いのではないでしょうか。しかし、ローカルMVVで成果が出なくなったとき、ミドルマネジメントはどこに突破口を探せば良いのでしょう。そもそも会社や組織の存在意義は何なのか?自分の組織の役割や期待されていることは何なのか?こうした問いに応えようとすると、全社MVVがヒントを与えてくれることがあります。
 
 例えば、某消費材メーカーには、「豊かな共生社会の実現」というミッションがあります。自部署にとって豊かさとは何なのか?自部署にとって共生社会とはどんな社会なのか?こんなことを対話してみるだけでもヒントが見つかるかも知れません。

 日頃、そんなこと考えたことないし、話したこともないよ、といった内容にこそヒントが隠されているものです。

 MVVが重要であることは論を待ちません。一方で、組織の中には、亜種、変種したローカルMVVが多数存在します。MVVを議論するとき、こうしたローカルMVVの存在にもしっかり着目することが大切ではないでしょうか。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科(現在は経営学研究科)博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において30年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)