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2025年10月6日

ますます求められる持続可能なキャリア(サステナブルキャリア)

 2025年度の新入社員を対象とした某調査機関の結果によると、新入社員の約7割が「終身雇用」を希望しており、安定志向が強まっています。この背景には、賃上げなどによる初任給の引き上げや、将来不安などから、安定した雇用を求める若者が増えていることが挙げられます。

 一方で、ミドルやシニア世代においては、「一つの企業で定年まで働く(終身雇用)」は、一つの選択肢であり、多様な働き方や職業選択が可能になったことを強く意識しています。

 いずれにしても、変化の激しい環境の中で、個人が長期にわたって満足感や経済的安定を保ちながらキャリアを継続するには、何が必要なのでしょうか。

 人事界隈では、昨今『サステナブル・キャリア』という言葉をよく耳にします。個人の幸福、健康、生産性を現在から将来にわたって維持しながら発展させるキャリアという意味です。単純に長く働き続けることではなく、自分らしさを保ちながら、社会的にも経済的にも充実した職業生活を送ることを理想とします。将に持続可能なキャリアですね。

 日本でも多様な働き方や職業選択の文脈で、フリーランスやギグワーカーといった働き方を選択する人が増えています。自由度が高く、自分の裁量で仕事ができるというメリットがあります。一方で、収入や地位の不安定さ、依頼主とのストレス、孤独感といった課題も抱えているようです。

 フリーランスやギグワーカーとして長く安定したキャリアを築くためには、何が必要なのでしょうか。

 フリーランスやギグワーカーに関する調査・研究は盛んに行われています。米国での某調査結果によると、フリーランスやギグワーカーといった個人事業主は、自身のキャリアマネジメントに関して、3つのパターン(傾向)があると指摘しています。

①自己主導型キャリアマネジメント:中長期的なビジョンを描き、計画的に自分のキャリアを設計するタイプです。自己実現や成長を意識し、常に市場の変化を先読みして自分のスキルをアップデイトするタイプです。

②環境適応型キャリアマネジメント:このタイプは、その場の状況に応じて柔軟にキャリアを調整する能力に長けています。市場や顧客のニーズが変われば俊敏に対応し、新たなキャリア構築を探索することを得意としています。

③バランス重視型キャリアマネジメント:このタイプは積極的なキャリア管理を避け、仕事と私生活のバランスを保つことを最優先します。キャリアの発展よりも、安定した生活リズムを保ち、ストレスを減らすことを重視するタイプです。

 ①と②のタイプに見られる特徴として、自己理解、学ぶ機会に貪欲、ネットワーク構築能力が見られるようです。③のタイプでは、幸福感、柔軟な働き方、社会的支援(ソーシャルサポート)を重視する傾向が見られるようです。特に社会的支援(ソーシャルサポート)に関しては、家族や友人からの精神的サポートだけでなく、仲間とのコミュニティ形成や相互支援が重要であることが分かりました。

 キャリア持続可能性(サステナビリティ)を高めるには、個人が積極的かつ戦略的にキャリア自己管理を行うことの重要性が指摘されています。自己管理のスキルを徐々に学び、発展させていく過程がポイントのようです。

 フリーランスやギグワーカーといった個人事業主に限らず、組織で働く私たちがサステナブルキャリアを上手に構築していくには何が必要なのでしょう。

 キーワードは、「キャリア所有意識」と「キャリア満足度」です。

 「キャリア所有意識」とは、個人がキャリア形成に関与し、自律的にキャリアを管理することを意味します。不確実な労働環境では、自分のキャリアは自分で管理するという意識が特に重要になります。例えば、定期的に自分のスキルや市場価値を見直し(エア転職のススメ)、必要に応じて新たな知識や経験を獲得する(リスキリングのススメ)といった行動が、キャリア所有の具体的行動です。

 「キャリア満足度」は、給与や昇進機会だけでなく、仕事と生活のバランスや自己実現の可能性なども含む総合的な満足度を意味します。持続可能なキャリアのためには、経済的な成功だけでなく、心理的な充実感も必要不可欠なのです。

 多くの皆さんにとって働く期間は伸び(生涯現役社会)続けていきます。イキイキとやりがいを持ってサスティナブルに働き続けるのには、一人ひとりが自身のキャリアを主体的にハンドリングし、環境変化に柔軟に適応していくしなやかなメンタリティ(レジリエンス)が求められます。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科(現在は経営学研究科)博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において30年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)