2025年12月23日
今回より拙著(人事1年目の教科書 ひとり人事から中堅企業まで使える)内容に関連したコラムを連載していきます。初回は、賃金制度についてです。 皆さんの組織の賃金制度はどうなっていますか?人事担当者であれば、人事評価制度改訂のタイミングで見直したり、定期昇給やベースアップがある会社であれば毎年定期的に賃金テーブルを書き換えたりしているでしょう。昨今では、労働力人口減少、少子化から新卒採用が売り手市場となり、一部のネームバリューのある大手企業以外は人材確保が厳しくなっています。大卒初任給についても、ここ数年は急上昇し、ユニクロを展開するファーストリテイリングは最大で37万円までに上昇しています(賛否両論ありますが・・・)。 給与や賞与は雇用労働環境を色濃く反映します。現在、第三次ジョブ型ブームが注目され、人事制度の基本システムである等級制度を変更する動きも強まっています。内容は、「能力」を基準とした仕組みから「職務」や職務と能力を折衷した「役割」を基準とする仕組みが大半です。 賃金制度は人事制度の一部ですが、組織内での序列構造を反映した重要な仕組みでもあります。特に、個人の役割や職務が曖昧で、同時に複数業務を任命したり、業務繁閑を残業(時間外労働)で対応するメンバーシップ型雇用の企業では、本人の能力やスキル、専門性よりも年収金額がそのまま社内序列を意味する場合も多いです。 賃金制度には、組織が社員の何を評価し、どんな人材を求めているのかという価値観が反映されます。社員の公平感やモチベーションにも影響します。 単純に昇給額や評価結果の算定だけでなく、賃金制度によって働き方やキャリア形成にも影響します。短期的業績結果による賞与やインセンティブだけでなく、中長期の昇給イメージ(将来自分の年収はいくらまで上昇する見込みがあるのか=期待水準)によって、その後の生活設計も大きく異なります。 このように賃金制度と働き方やキャリアは相互に影響し合っているのです。先程も触れたメンバーシップ型雇用の企業では、賃金制度はいまだに職能資格制度が主流です。そこでの賃金額は、担当する業務や役割ではなく「能力」を基準とします。配置転換等で職種や職務が変わっても、賃金はスグに上下することはありません。長い年月をかけて少しずつ調整(チューニング)されていきます。 職能資格制度では、幅広い業務経験(ジョブローテーション)を通じて人材育成もしてきました。「能力」は業務経験の蓄積を通じて向上すると考えられ、昇給も自ずと年功的になります。この考え方は社員の生活を保障するという「組織家族主義」の観点から重視されてきました。 しかし、平成から令和、失われた30年などと揶揄された期間を経て、この考え方にもいよいよ限界が見えてきました。長期雇用を前提とする仕組みの中で、雇用保障と引き換えに企業の指揮命令権が強く認められ、辞令一枚で配置転換や転勤、長時間勤務に応じなければいけないことが、「標準的?」組織人として、社会規範(暗黙の前提)のように定着してきました。 少子高齢化と人口減少が急速に進む中ではこうした社会規範にも揺らぎが生じ、必ずしも長期雇用という拘束性の強い働き方を求めず、コスパが悪いと感じる労働者も増加しています。もちろん、JTC(ジャパニーズトラディショナルカンパニー)と呼ばれる大企業・中堅企業では、「組織家族主義」を標榜し続けることで人材獲得競争に勝ち抜こうとする動きも見られますが、減少傾向は否めません。 人事担当者が実務現場で賃金制度を考える際、賃金水準世間相場、業界水準、春闘労使交渉の結果、昇給シミュレーションといったテクニカルかつ精緻で正確なミクロ業務も大切です、でも同時に 「社員はホントに家族なのか?」、「社員の働き方やキャリアをどこまで拘束できるのか?」、「社員は本当に長期雇用を求めているのか?」 こうした素朴(根源的)な疑問に向き合う大切さも忘れないで欲しいものです。 お手に取っていただけますと、嬉しいです。↓ (Amazon) https://amzn.asia/d/igD0yOB (楽天) https://books.rakuten.co.jp/rb/18221553/?scid=we_mail_item_share

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長
1996年早稲田大学卒 2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科(現在は経営学研究科)博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉 1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。 その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において30年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。 現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長 ■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員 ■2級キャリアコンサルティング技能士 ■産業カウンセラー ■大学キャリアコンサルタント ■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)