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2020年11月5日

「生産性」~この誰もが思考停止に陥るマジックワードについて考える~

  「生産性」という言葉を聞いて皆さんは何を連想しますか?ここ5年程度巷で耳にすることが多い「生産性」という言葉。そもそも「生産性」とは何を意味するのでしょうか?理解したようで実はよく理解していない言葉です。今更、他人に聞くのも恥ずかしいし・・・といった状況なのではないでしょうか。それくらい日常会話で頻繁に使われています。
 民間企業では「いかに生産性を上げるか」という方法論に議論が集中していますが、「生産性」という概念を正しく理解できていなければ、元も子もありません。
 生産性向上には、従業員の働き方改革が重要ですが、「働き方改革実態調査」(デロイトトーマツ(2017))によると、働き方改革の効果が感じられている(49%)、従業員の満足が得られなかった(計44%)という結果が出ています。つまり、約半数しか働き方改革の効果を感じておらず、従業員の満足感も向上していないということです。また、調査会社米国ギャラップ社調べ(2018)では、「仕事への熱意あふれる社員」の割合が6%(世界平均13%)であり、139ヶ国中132位という結果が出ています。    
 バブル崩壊後の失われた30年。デジタル化を推進することなく、賃金の安い非正規雇用者と正規社員の長時間労働で乗り切ろうとしてきた多くの日本企業。ここ数年は、働き方改革やコロナ禍で経営組織改革が待ったなしの状況に追い込まれています。働き方改革の目標を生産性向上としている民間企業も多いようです。しかしながら経営層が生産性向上を叫べば叫ぶほど社員はシラケムードになっていきます。従業員という最重要な企業資産の価値を高める努力を怠ってきた民間企業は、真の生産性向上を目指し、これから何をしなければならないのでしょうか。
 有名な将棋の羽生善治さんが興味深いコメントをされています。「AIの発達によって人間の仕事がなくなるんじゃないかという話があるが、仮に仕事が全部なくなって、自由に好きなことをしていいですよとなった時に、それでもかなりの人間は働く気がするんですよ。好きなように遊んでいるだけでは、しばらくは楽しいですが、だんだんつらくなって、最後は働きはじめるのかなという気がします」
 「生産性」というマジックワードについて考える際、考えれば考えるほど、労働すること自体が、倫理的かつ道徳的だと思っている日本人の性に向き合うことになるのかも知れません。
経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長 岡田英之

経営統括本部長・組織人事コンサルティング部長

岡田英之

1996年早稲田大学卒
2016年東京都立大学大学院 社会科学研究科博士前期課程修了〈経営学修士(MBA)〉
1996年新卒にて、大手旅行会社エイチ・アイ・エス(H.I.S)入社、人事部に配属される。
その後、伊藤忠商事グループ企業、講談社グループ企業、外資系企業等において20年間以上に亘り、人事及びコンサルティング業務に従事する。
現在、株式会社グローブハート経営統括本部長、組織・人事コンサルティング部長、グループ支援部長
■日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員
■2級キャリアコンサルティング技能士
■産業カウンセラー
■大学キャリアコンサルタント
■東京都立大学大学院(経営学修士MBA)